インタビュー

Interview

スペシャルインタビュー 前田旺志郎さんSPECIAL INTERVIEW

「ただ楽しくて」
続けていた子役時代

人懐っこい笑顔で、相手の懐にするりと入ってくる。20歳の俳優・前田旺志郎には、そういう親しみやすさがある。
兄弟漫才「まえだまえだ」で、「M-1グランプリ」準決勝進出を果たしたのは、兄が8歳、弟の旺志郎が6歳のとき。現在は大学生となり、とくにここ数年の間に多くのドラマ、映画、舞台に出演。NHK連続テレビ小説『おちょやん』では寛治役を丁寧に演じ、視聴者を惹きつけた。着実に成長を続ける、現在、注目株の俳優のひとりだ。 そもそも芸能の世界に足を踏み入れたのは、3歳のとき。恥ずかしがり屋の兄を、両親が松竹芸能タレントスクールに入学させたところ、仲が良かった弟も後を追って入学。

「お兄ちゃんのやることは何でもやりたい(笑)。声を出したり、身体を動かしたり、いろんなことをやりました。そのときは俳優になりたいとか、お笑いをやりたいとかは全くなかったんです。放課後の習い事感覚で、ただ楽しいから通っていただけで」

ところがある日、レッスンで漫才のネタをもらい、兄弟で発表することに。大阪生まれで、お笑い好き。「漫才1個、ゲットしたぞ!」と大喜びの兄弟は、当時友だちの間でも話題だった「M-1グランプリ」に出場。子供らしい無邪気さと、子供らしからぬ上手さが受け、最年少で準決勝進出、さまざまなメディアに取り上げられた。
その後、お笑い番組のほかにもドラマや映画に出演したが、「仕事しているという感覚がまったくなくて。憧れていた番組に出られる、役者さんに会えるのがうれしいな! 楽しいな! と」フワフワした感覚のまま続けていたという。

高校受験をきっかけに、
自分の意志で役者の道へ

そんな彼の転機となったのが高校受験だ。仕事を辞めて大阪で地元の友達と同じ高校に通うのもよし、東京の学校に通いながら仕事を続けるのもよし。両親は本人の選択に任せた。

「そのときにすごく悩んで。実はサラリーマンへの強い憧れもあったんです。でも一方で、やってきたことを簡単に手放すことへの恐怖もある……」

「本当は俳優をやりたいの?」「やりたくないの?」と自問自答を繰り返した。
「そのときに『お芝居をやるのはやっぱり楽しい。やりたい』、『サラリーマンになる道を外れてもなんとかなる』と、受け身だった自分から、初めて能動的な気持ちに変わったんです」

続けると決めたからには、これからは責任を持って仕事に向き合おう、自分で決めたというプライドをちゃんと持ってやっていこう。そう誓ったという。

楽しむには、
そのための努力が
絶対に必要

覚悟をもって進み始めたこの道で、仕事や学業の合間を縫って、いま熱中しているのが、演技のレッスンやボイストレーニング。

「最近、取り組んでいるのは、自然体の自分ではできないような役、自分とはかけ離れた役をいかに自然に演じるかというレッスンです。これまで僕に求められるのは、高校生の役とか明るい性格の役とか、等身大の自分に近いものが多いんです。でもいつか、自分とは全然違う役を演じるときが絶対にくると思うので、そのときのための準備はしておこうと。ボイストレーニングも、オーディションで歌が歌えることが損に働くことは絶対にないと思うので」。

昨年秋には兄弟で、松竹エンタテインメント俳優スクールで学ぶ1期生たちの演技集中稽古に、ゲストとして2日間参加。俳優を目指す若者たちと、つかこうへいさんの『熱海殺人事件』のワンシーンを作り上げていったという、が──。

「もったいないなと思ったのは、僕らが一番楽しんでいたということです。スクール生はもちろん緊張すると思うんですけど、楽しめてないように感じました。セリフを覚えるのも、みんなのほうが遅かったのですが、僕らはセリフが頭に入っているからこそ、身体が自由に動くし、アドリブも言えて、その対応もできる。そこで生まれるものがすごく楽しい。物事を楽しむためには貪欲さというか、そのための努力が絶対に必要だと僕は思っています」

言葉で言わずとも、ゲスト二人の背中から、スクール生たちは多くのことを受け取ったことだろう。その後もスクール生が彼の演技レッスンの相手役を務めるなど、交流は続いている。

「スポーツだって上達しなければ、1年後2年後、楽しいままではいられません。60歳、70歳になったときに芝居を楽しみたいと思うなら、成長し続けて、今とはまるで違う次元で芝居をしてないと全然楽しくないと思うんです」

いつまでも
謙虚であるべきだ
と思ってる

出演のオファーが増える中、彼が担当マネージャーにお願いし続けているのが、「調子に乗ったなという瞬間があったら、すぐに言ってほしい」ということ。 子役時代、現場に同行していた母親に「人への感謝の気持ちを忘れてはいけない」と、厳しくしつけられてきた。今後、さらに活躍とともに、自分に対する周りの人の対応も変わってくるかもしれない。でも、胸にとどめてきた「謙虚でいよう」という気持ちを忘れて調子に乗ったら自分の成長はそこで終わり、そう肝に銘じている。 最後に、座右の銘はあるかと訊いてみた。それを記した紙が、子供の頃から兄弟の寝室のドアに貼ってあったという。いつもいつも母親が言っていた、前田家の合言葉。

──笑う門には福来たる──

あの笑顔のルーツはこんなところに。

撮影
Daigo Tokinaga
取材 / 文
Mayumi Kimura

前田旺志郎まえだおうしろう

2000年12月7日、大阪府生まれ。
6歳のとき、兄と組んだ兄弟漫才「まえだまえだ」でブレーク。子役からスタートして、数々のドラマ、映画、舞台に出演。
2020年、DISH//が歌う『猫』を原案にしたドラマ(ドラマ25「猫」テレビ東京)で小西桜子と主演を務める。2021年、NHK連続テレビ小説『おちょやん』松島寛治役が話題に。現在、慶應大学在学中。松竹エンタテインメント所属。兄は同じ事務所所属の前田航基。